IQ・第1章

IQ(知能指数)について

知能指数(Intelligence Quotient; IQ)とは何でしょうか。端的に言えば、「IQとは知能検査の結果を表示する方法の一つ」と答えることになります。知能指数(IQ)偏差知能指数(DIQ)の他には、知能偏差値(ISS)や、「優」「中」など大まかな5~7段階に分けた知能段階点で表す方法、最下位から何パーセントの位置にあるかをパーセンタイル(知能百分段階点)で表す方法があります。

整理すれば、知能を測定する方法には様々なものがあり、IQというのは知能検査値の一種に過ぎないということが出来ます。そして、その知能指数(IQ)を測定する方法も様々であり、100年に渡る知能検査の歴史の中で様々な検査手法が策定・改善され、教育・就職現場や軍事的理由のために実施されてきました。(各種検査手法の詳細については専門的になりますので、本稿では割愛します)。

大まかに概観すると、一般的に知能指数・IQと呼ばれるものには「生活年齢と精神(知能)年齢の比を基準とした従来の知能指数 (IQ) 」と、「同年齢集団内での位置を基準とした標準得点としての偏差知能指数(Deviation IQ,;DIQ)」の2種類があります。狭義でのIQは従来型IQのみを指しますが、後述のように従来型IQ値は使われなくなりつつありますので、今日、一般的にIQと言えば偏差IQ(DIQ)を第一義に含むと考えてよいでしょう。

「従来型IQ」検査では、『精神(知能)年齢 ÷ 生活年齢(実年齢) × 100 』で数値算出されますが、成人(何歳から成人とするかは検査法によって異なります)の場合は生活年齢を18歳程度に固定して計算されます。「偏差IQ(DIQ)」は、『(個人の得点 − 同じ年齢集団の平均) ÷([15分の1または16分の1] × 同じ年齢集団の標準偏差) + 100 』で数値算出されます(標準偏差はWechsler式では15、田中Binet式では16を使用)。

IQの平均値は100であり、85–115の間に約68%の人が収まり、70–130の間に約95%の人が収まると言われています。IQ100を中心として山型状に分布する(正規分布)ものとされますが、従来型IQを使用する場合は、必ずしも綺麗な分布とはなりません。標準偏差2つ分 (2SD) 以上平均値から乖離している場合は異常値とされ、標準偏差16の検査ではIQ68以下と132以上、標準偏差15の検査ではIQ70以下と130以上が異常値とされます。(WISC-IIIのFIQ、PIQは上限IQ160・下限40、新田中B式知能検査の中高成人用では、上限IQ145ですが、それを超える得点の場合は「~以上」、「~未満」と表示されます。)。

検査を受ける者の知的能力が、何歳の人の平均と同じかをあらわしたものを「精神年齢 (Mental Age, MA)」と言います。知能検査における「精神年齢」は「知能年齢」のことであり、性格が幼く子供っぽいか否かという意味ではありません(関係することはあるとしても)。「生活年齢 (Calendar Age, CA)」は「実年齢」のことです。「従来のIQ」の数値は、あくまで「知能の発達の早さ」を示すものであり、単純な数値比較によって直ちに天才的な高知能である等と断定することはできません。

例えば、5歳の児童が、8歳の平均的児童と同じ知能を示せばIQ160になり、5歳の児童が10歳の平均的児童と同じ知能を示せばIQ200となります。それでは、IQ100の11歳児とIQ200の5歳児を比べれば知能の高さはどう考えられるでしょうか?一般的にはIQ200の方が数値的に高知能と感じるでしょうが、知能水準としてはIQ100の11歳児の子の方が高いことになります。これは、11歳児でIQ100ということは11歳の平均的知能を持っていると言えるのに対して、IQ200の5歳児は知能として10歳児レベルなので、知能として必ずしも優ることを意味しない訳です(もちろん、その子が12歳になった時に比べるとIQ100より高い指数を示す可能性は高いでしょう)。同じ理由から、8歳でIQ100の人が10歳になったらIQ90になっていた場合、一見すると数値が低くなったので知能退化したかに見えるものの、8歳時の知能年齢は8歳であるのに対して(IQ100/100×8)、10歳時の知能年齢は9歳です(IQ90/100×10)。この意味で(平均値よりは低いものの)知能水準自体は伸びていると言えます。

これと関連しますが、年齢12、13歳を過ぎるとそのままの「知能年齢」の定義では不自然なIQが算出されるので、「従来型IQ」検査では一定の方法で修正されてきました。たとえば23歳の平均的成人の知的能力はあくまで精神年齢15歳~17歳9ヶ月とされ、12歳以降はもはや本来の意味での知能年齢の定義ではなく、自然なIQを算出するために定めた架空数値を使わざるを得なかったのです。

要するに、従来型IQ値は、「相対的な発達の度合い」「知能の発達の早さ」を示す数値であり、検査問題の難しさも有限であるため、年齢を重ねるごとに一定値以上の数値が出る確率は徐々に減っていきます(IQ200の5歳児が成長してもIQ200のままであることは厳密に検査される限り、通常あり得ません。成長しても「幼児期のIQ値」を称するなら幼児期の身長の高さを自慢しているようで滑稽な話です)。これらの要因もあってか、「従来型IQ」は近年使用されなくなってきました。これに対して、偏差IQ(DIQ)検査の場合は、分布が厳密であるため、低年齢でも高年齢でも、160程度が上限で、40程度が下限である場合が多いとされます。「IQは原則として大きく変動しない」と言われるのは、この偏差IQのことを指しています。

IQ以外にもいくつかの表示法が使われていますが、知能を偏差値で表した数値を「知能偏差値 (Intelligence Standard Score, ISS)」と言います。これは、偏差値50を中心として上に行くほど知能が高いことを表し、母集団の結果にばらつきが多い年齢層とばらつきが少ない年齢層の両方で、正確な表示ができるとされています。従来型IQと学力は測定比較しにくいものですが、学力検査の結果も学力偏差値で表示される場合が多いため、知能偏差値(ISS)と学力は比較しやすいと言えます。偏差知能指数 (DIQ)は中心値が100で、知能偏差値(ISS)は中心値が50である点で異なりますが、偏差IQ(DIQ)はもともと偏差値・標準偏差の考え方を利用した表示法なので、知能偏差値(ISS)は偏差IQ(DIQ)と換算できる関係にあります。
※ 換算するには、標準偏差15の場合で「 ISS × 1.5 + 25 = DIQ 」

第1章のポイントとしては「IQと一口に言っても算出方法によって意味が異なるので、算定根拠なくしてIQ値に一喜一憂してはいけない」ということです。「Aさんは50点でBさんは100点だった」という事実だけ聞いても、テスト難度や受験層レベルによって数値の意味が異なるのと同じです。Aさんの50点は数学オリンピックレベルの問題で、Bさんの100点は算数の基礎計算テストだったかもしれません。偏差値で比較すれば真実に近くなりますが、それも受験層レベルによって変わります。「学校の学力テストにおいても、点数に一喜一憂することなく弱点を分析して対策していくことが最も重要」という構造と本質的に同じと言えるでしょう。

以上、知能指数(IQ)について簡単に見てきましたが、ご承知のように「IQ神話」というべき無理解や様々な愚策も今日まで見られるところです。次章では、これらIQについての問題点や批判を見ていくとともに、Harvard大学ガードナー(Haward Gardner)博士の「多重知能(Multiple Intelligences ;MI)」の考えや、「情動指数(Emotional intelligence Quotient; EQ)」について触れていこうと思います。